12/15/2003
雨の降り始めた街が好き。
埃っぽいアスファルトの道路に
ひとつ、またひとつと水玉模様が増え、
風景がワントーン濃い色に染まって行くのを
ただぼんやりと眺めていると、
私はいつもけだるい様な眠気に襲われ、まぶたがとろりと重くなります。
この脱力感が、私は結構気に入っています。
そして何より、降りはじめの雨の匂いが好き。
街のアスファルトに降る雨は、
小学校の頃、お習字の時間にかいだ墨の匂いに似ています。
そのせいでしょうか。
懐かしいような、切ないような気持ちになるのは。
かかとの破れ目から雨が染み込んで、
グジュグジュと音をたてた白いズック靴。
初めて買ってもらったワンタッチ傘と、
銀色のばねに指をはさんで泣いている私。
ランドセルの隙間から入った雫で、はしっこが濡れてしまった教科書。
雨のおかげで、幼い記憶が次々に甦ります。
そして、その後。
私は決まっておいしいお茶が飲みたくなります。
ぬるめのお湯でゆっくり入れた、甘いお茶。
自分のためだけに入れるお茶は、
それだけで、何だかとても贅沢。
慌しく過ぎていく時間を一瞬止め、
何も考えず、一杯。
いつもはつけっ放しのラジオも消して、
雨音だけを聞きながら、頭を空っぽにするのも、
たまには悪くありません。
一人の孤独も愉しみに変えてくれる。
雨にはそんな不思議な力があるようです。