07/01/2003
子供たちが夕飯を食べている間。
近所のお友達に用があり、「お留守番お願いね・・」と、長女にだけ言い残してそっと家を出ました。
９丁目にあるそのひとの家まで自転車で５分。
用事をすませて、１５分で帰ってこられる計算です。
公園ぞいの道を大急ぎで走りました。
気があせっていたのでしょうか。
気がつくと、いつも曲がる角を一つ間違えてしまいました。
まあ、いいや。次の角を右に曲がれば大丈夫。
鼻歌交じりで先を急ぎます。
でも、そうはいきませんでした。
「あれ？ここを曲がれば元に戻るはずなのに・・」。
ゆっくりと弧を描くカーブは、また違う道につながっています。
じゃあこっちだ、いやあっちだと入り組んだ路地をやみくもに走っているうちに、
どうやら本当の迷子になってしまいました。
初夏と呼ぶにはまだ少し早い、６月はじめの夕暮れ。
日が傾き、あたりはひんやりしてきています。心細くなるような静けさです。
こんな時に限って誰も通りません。
西は？東は？空を見上げても、今夜は月も出ていません。
歩道の脇に咲いている桃色の月見草はだれかが植えたのでしょうか。
それとも風が運んできたのでしょうか。
あるかなきかの風に揺れています。
ゆうらり、ゆうらり。
こっちだよ、こっちだよとてまねきしてくれているよう。
えいっとその角を曲がってみました。
あれ？この家はさっきも見たような・・。
電線に止まったいじわるヒヨドリが、「ケラケラ・・」と笑います。
おかしいなあ？やっぱりこっちかと今度は左へ曲がると、
玄関先につながれた芝犬が「どうしたの？」と言いたげに寄ってきました。
どこからか、犬のおわまりさんの歌が聞こえてくるようです。
いえいえ、大丈夫デスヨ。ご心配なく。と、横目で合図して先を急ぎました。
あっちをウロウロ、こっちをウロウロ。
あのクレマチスの咲いた庭を曲がれば、たしか元の場所。
この防火水槽はさっき通ったゾ。
迷路のような９丁目をくまなく探検する羽目になり、
やっと見覚えのある坂にたどり着いたときには思わず
「ここだ、ここだ」とはしゃぎ声をあげてしまいました。
あんなに長い間走り回ったのに、時間にしてほんの５,６分。
実際は、あれ？といささか気が抜けてしまうほど短い間でしたが、
まいごのまいごのこねこちゃんは、
息もたえだえになってしまいました。
大急ぎで帰ったので、結局予定通り１５分で帰宅。
「あ、おかえり」。
だあれもお母さんの迷子には気づきませんでした。