10/31/2003
郷里に住む祖母と電話で話をしていたときのこと。
「最近、毎日の生活の中で、感じたこととか、思ったことを、
色々と書いてんネン」
近況を話す私に、
「ああ、私もそんなことしていたことがあったなあ」
という、思いがけない返事。
「エ？あーちゃんが？」
「そう。ちょうど今のあんたと同じ年のころや・・。
子育ても一段落した。生活にも少し余裕が出てきた。
これからやっと、自分のしたいことが出来る。
何かしよう。
でも、何をしたらいいか分からん。
運転免許を取りに行ったり、
お料理にお茶、お花、三味線と、
目につくものは、手当たり次第、何でもやってなあ・・。
でも、『本当に私は、これがやりたいの』なんて、いつも悶々としててナ。
そんな時や。
毎日の思いを、
ちょっとした文章にしてたンは。」
意外でした。
私が知っている祖母は、祖父が一代で築いた店を手伝い、
毎日、きりきりと忙しく働いていました。
手が空くと植木の世話をしたり、散歩にいったり、
合間をぬって日本画をたしなんだり・・。
無駄にしている時間などありませんでした。
いつも凛として、
自信に満ち溢れ、
おしゃれで、生き生きしていて、
私の自慢の祖母。
人生を楽しんでいる祖母。
そんな祖母にも、
今の私と同じような思いを抱いて、
迷っていた時代があったなんて・・。
「自分の胸のうちを形にするだけで、不思議と落ち着くやろ？
『書く』っちゅうことは、気持ちを整理するのに、とてもいいみたいやな」
本当にそのとおり。
自分の気持ちを、一歩離れたところから見ることが出来るせいでしょうか。
嬉しいことも、腹の立ったことも、
書いた後は、お腹の中にストンと落ちて、
すっきりするのです。
「今度、あーちゃんが書いた文章、読ませて欲しいなあ」
そう言うと、
「むかしむかしのお話や」
と電話口から照れたような祖母の声が聞こえてきました。
まだ私が生まれる前の若い祖母は、
毎日どんなことを思って、暮らしていたのでしょうか。
初めて、祖母を、一人の女性として意識した・・。
そんな、秋の夜の長電話でした。